原因遺伝子の発見について

  • 2015.02.16 Monday
  • 20:47
オランダの研究グループより CHARGE症候群(連合) の原因遺伝子が発見されたという報告がなされました。
詳しくは下記をごらん下さい。

なお、これに伴い、血液検査等の研究が進められることになりますが、当会は賛成・反対のいずれの立場もとっておりません。
あくまで、各ご家庭の自由な意思で決定されますよう、お願い申し上げます。

 
CHARGE症候群の原因の遺伝子が発見されました
文責:長野県立こども病院
総合周産期母子医療センター遺伝科 川目 裕


 
1. オランダのナイメーヘングループによってNature Geneticsという権威ある学術雑誌のオンライン版に84日に発表されました.
 
2. 論文の要旨 
マイクロ・アレイ法(染色体の小さく欠けている(欠失)部分を検査できる新しい解析技術)を用いて,2名のCHARGE症候群を有する患者さんに第8番染色体のq12という部位に,染色体の微小の欠失が見いだされました.その小さな欠失が他の患者においても認めるかどうかを,17名のCHARGEの患者さんについて調べましたが,同じような欠失は認められませんでした.

そこで,始めのふたりの患者さんに認められた,小さな欠失の中に存在する9つの遺伝子の遺伝暗号の配列をすべて調べたところ,CHD7という遺伝子に,17名中10名(59%)に,変異(遺伝暗号の配列の違い)が見いだされました.そこで,このCHD7という遺伝子が原因遺伝子のひとつであると結論しています.すなわち,染色体の欠失で,この遺伝子を失っており機能しない,あるいは,遺伝子の中に変異があって機能しないということが原因ということです.

この遺伝子の変異が認められた患者さんで,両親,あるいは両親の一方の遺伝子検査を8家族で行っていますが,すべての親には遺伝子の変化は認められませんでした.すなわち,この遺伝子の変化は,今回調べた家族では,突然変異で生じたとのことでした.

CHD7という遺伝子は,Chromodomain Helicase DNA-binding遺伝子と呼ばれるもののひとつであり,この遺伝子からつくられるたんぱく質は,染色体の構造や遺伝子の発現に作用し,胎生初期の発生に重要な働きを有すると推測されていますが,いまだその働きは詳しくはわかっていません.この遺伝子のたんぱく質は,胎生期,また成人の眼,脳,内耳,胃,腸,心臓などにみられます.

 
3. CHARGE症候群の原因遺伝子発見についてのコメント

・ひとつの論文だけですので,その意義を論じるには,今後の研究を待つ必要があります.今回の論文では,CHARGEを持つ患者さんの約半数がこの遺伝子が原因であると報告されています.世界のどこの国のCHARGEの患者さんも,本遺伝子が原因なのかどうかの更なる研究が必要です.また,日本人のCHARGEの患者さんで,この遺伝子の変化を有する人がいらっしゃるのか,また,どれくらいの頻度なのかも現在は未知であります.

・今回の原因遺伝子の働きは,まだよくわかっていません.しかし,成人になっても眼,脳,蝸牛などで発現していますので,大人になってからもこの遺伝子は,各部位で何らかの働きを持っていることが推測されます.よって,遺伝子の働きの研究がさらに進むことによって新たな治療法の開発に結びつく可能性があります.

・日本人においてもCHARGEの患者さんが,この遺伝子変異をもっていることがわかれば,遺伝子検査によって確定診断が可能になります.症状の組み合わせから「疑い」と言われていた場合に,遺伝子の変化があれば,CHARGE症候群は確定ということになります.

・しかし,症状の組み合わせから,明らかにCHARGE症候群と診断を受けている場合,遺伝子検査をして変異がなかったといって,CHARGE症候群ではなかったということではありません.

・今後,CHARGE症候群1型(遺伝子変異を持つ方),CHARGE症候群2型(遺伝子変異を持たない方)....というように分類されてゆくことになるでしょう.

・今後,遺伝子の変化の有無,さらに遺伝子変化の種類によって,症状や成長,発達の程度に違いがあるのか,相関があるのかないのかという研究が進むと考えられます.それらの情報をもとに,子どもさん個人個人にあった治療・療育が可能になる可能性があります.